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内なる海は開かれる
(2019)

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共同制作:大森裕子、角谷啓太、大西義人、齋藤葉弥

 

素材:海水、PHセンサー、溶存酸素センサー、温度センサー、扇風機、白熱電球スタンドライト、シリコンチューブ、循環ポンプ等

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本作品は、本年5月に茨城県つくば市で開催された、つくばサイエンスアートエキシビジョンにて展示された。現代美術作家の齋藤帆奈と、海洋生態学の研究者である大森裕子との対話によって生まれたアイディアに基づき、海をテーマとしたインスタレーションである。

 私たちは、様々な仕方で「海」とつながっている。生命の起源である細胞は、原初の海の内と外の境界が隔てられたのがはじまりと言われている。また、私たちの身体を構成する炭素は海を介して地球上を循環している。そして、食物の多くが海産物に由来する。また、近年では海洋汚染が環境問題として取り上げられている。そのうち、PHの酸性化、水温上昇、酸素濃度の低下は、とくに海の環境悪化の指標として話題となっている。この3つのパラメータの変化は、生物史に照らし合わせると、大量絶滅の前兆としても解釈できるという。私たちは、海から生まれ、海に恩恵を受け、またときには仇をなす。海は、私たちが様々な複雑な因果関係の中で生を受けていることの象徴のように感じられる。だが、そのような、私たちを取り巻く様々な存在の相互関係について、忙しい日常生活の中で実感することは難しいときも多いのではないだろうか。そこで、本作品では、海をシンボルとして、私たちを取り巻く不可解で複雑な環境との相互作用に想像を巡らせる媒介となるような表現をしたいと考えた。

 インスタレーションは、海水の入った平椀、果実酒瓶、フラスコを中心としている。海水は電動ポンプとサイフォン原理によって、それぞれの容器をつなぐチューブの中を通って循環している。平椀の乗った膳には、過酸化水素水、クエン酸水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液がそれぞれ入った小瓶と徳利が置かれている。鑑賞者が液体を選び、平椀の中に注ぐと、じきに平椀の中の海水は、溶存酸素、PH、水温を計測する3種類の水質センサーの入った果実酒瓶に流れ込み、水質の変化がセンサーによって検知される。値の変化の組み合わせによって、ライトが点滅したり、扇風機がついたり消えたり、茶室の中で変化が起こる。サウンドもまたセンサーの値に対応して微妙に変化し続けている。床の間にはガジュマルの盆栽が入った水槽がおかれ、水質の変化に応じて、水が溜まったり、排出されたりし続ける。

 鑑賞者はインスタレーションの中に入り、相互作用することができる。しかし、結果は行動に一対一対応しておらず、時間的にも緩慢なため、自身の行動がどのように環境に作用したのかすぐにはわからないだろう。また、作品内のそれぞれの要素同士も相互に作用しあっている。例えば海水の中ではバクテリアや藻類が息づき、温度や光の量、水質に応じてその生態系は変化していく。このようなシステムを通じて鑑賞者が自身の行動、環境の諸要素の関係の仕方について観察し、思考することを促す。

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