© 2017 Hanna Saito

  • github-logo
  • Grey Instagram Icon
  • Grey Twitter Icon

Non-Retina Kinematograph (2017 - )

​ 素材:真性粘菌(モジホコリ)、iPad、アクリルプレート、無栄養寒天培地、webカメラ、プロジェクター等

Non-Retina Kinematographは、2017/11/3-2018/1/8に沖縄科学技術大学院大学にて開催された『人工知能美学芸術展』をきっかけとして制作された、現在も継続中のプロジェクトである。

展示作品は、粘菌(モジホコリ)※1、映画フレームが表示されたiPad、映像のプロジェクションから構成される。
 iPadの上では、粘菌が培養されている。粘菌は、一時間に1センチほどのスピードで餌を探しながら培地内を移動する。iPadでは、世界初のカラー長編映画である『虚栄の市』※2が1フレーム10分という粘菌の動きに合わせた超スローモーションで再生されている。私たち人間には、このスピードの動画は静止画として知覚される。

 粘菌は暗いところを好み、好きな光の波長、嫌いな光の波長があるため、iPadの画像に反応して動くことになる。粘菌の形状に合わせて、映画フレームのピクセルが入れ替えられ、粘菌の通った後の映画フレーム画像は粘菌が好む色の領域と、好まない色の領域に分けられていく。

前方のプロジェクターは、粘菌と粘菌が変化させたフレームを早回しで投影する。この映像によって、人間の鑑賞者は映画と粘菌をはじめて動くものとして知覚することが可能になる。

本作品において粘菌は、鑑賞者でもあり、制作者でもあると言うことができる。粘菌が光を感じ取り、移動することによって映画フレームは粘菌にとって好ましいピクセルの配置に変化し、人間にとっては無意味な配置になっていく。

 私たちは網膜を通して光を感じ取る。それが人間にとって「視る」ということだ。粘菌は全身を使って光を感じ取っている。本作品で上映される「映画」は、粘菌の知覚によって再構成された「非網膜」映画だ。

 

※1変形菌、真性粘菌とも呼ばれる。胞子を作るために小型のキノコのような形態をとるといった植物的な性質と、栄養を摂取するための変形体という形態では餌を探索して動き回るという動物的性質を併せ持った変わった生物。野生では落ち葉の裏や朽木などに生息する。生物学の研究等の為にもっとも培養しやすく、広く利用されているのがこのモジホコリ( Physarum polycephalum )という種である。単細胞生物でありながら、餌を効率的に探索、摂取したり、環境変化のパターンを学習したりするため、ある種の原始的な「知性」を備えていると言われている。

 

※2原題 ”Becky Sharp”。1935年に公開されたアメリカ合衆国の映画。3色法テクニカラーを使った世界初の総天然色長編映画である。明度の低い領域が多いため暗い場所を好む粘菌にとって都合が良い。現在ではパブリックドメイン(著作権フリー)の状態にある。